離してよ、牙城くん。
「また牙城渚?!」
悲痛な声をあげている花葉に申し訳ないと思いながらも、鞄を預けて小走りする。
牙城くんは、ほんとに頻繁に授業をサボる。
その度に“サボっちゃだめだよ”と言うけれど、ちゃんと受けるのは次の授業のみ。
それでも、地域的に見てもかなり偏差値の高いこの学校に編入できる頭脳はあるために、わたしよりぜんぜん賢い。
だけど、だ。
わたしにはお約束三か条という謎のルールがあるくせに、牙城くんはわたしの言うことを聞いてくれない。
それが少し、気に食わなくてこうやって毎回牙城くんを探してしまうんだと思う。
彼がいるのがどこなのか。
それは、考えなくても足が勝手に覚えている。
屋上に向かう階段を駆け上がりながら、「がじょーくん!」と呼びかけてみる。