離してよ、牙城くん。
「……カワイー、ね」
かわいくない、ぜったい。
からかうのにも、ほどがあるよ。
「……どいて、牙城くん」
どこ向いても牙城くんはわたしを見つめてくるわけで。
逃げられないこの体勢にドキドキが止まらなくって、ささやかな抵抗を試みる。
牙城くんの影のせいで、ほかのものなんか、視界に入らないんだよ。
「ううん、どかない」
「んな……っ、は、離れてっ」
「やだやだ」
首を振る牙城くん。
もう、なんで!
「は、半径100メートル以内に入ってくるの、禁止令だすよ……!」
最終手段、出してみた。
だけど、思ったとおりにはいかないみたい。
「えーそれはレベチだわ。
100メートルも距離取ったら、百々ちゃん豆粒じゃん」
なぜか爆笑している牙城くん。
ヒーヒー笑ってる彼を見るのははじめてで、
色っぽい雰囲気からぐんと幼くなって、ちょっぴりキュンとしちゃった。