傲慢?ワガママ?悪役令嬢?それでかまわなくってよ!~聖女の力なんて使ってやるもんですか!!
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オウガが護衛騎士として私の元へとやって来たのは一ヶ月前だった。
「今日から聖女様の護衛につくことになったオウガ・ディスタールです。以後お見知りおきを」
そう言ったオウガは金の髪を短く切り揃えていて騎士のくせに清潔感があった。騎士訓練で鍛え上げられた体躯は大きく骨格からして貴族たちとは違う。それなのにちょっとした仕草に気品があって、青く透き通る瞳は曇り一つなくこちらを見つめている……いや、違う……睨みつけてくる。
私の周りにいる人々は本音を言わないが、オウガだけは私を毛嫌いしているのが瞳を見ているだけで分かった。
嘘のつけない人……。
輝く金の髪に、青く透き通る瞳をキリリとさせているオウガは、鼻は高く唇は男性的で、侍女たちが騒ぐのも無理もない。間違いなく美丈夫だ。
そんな凛々しい顔が出会ってすぐに歪んだのよね。それから毎日眉間に皺お寄せて……。王城での仕事が聖女……私の護衛ではしかたがないか。
セリカは一カ月前のオウガと出会った頃に思いを馳せ、ボーっとした。今は私の安息の地……。中庭にある東屋で一息ついている。ここにいる間は誰も私には近づけない。近づく者がいればオウガが追い払ってくれる。
本音を言わない男たち、何を考えているのかわからない侍女たち、何もかもが煩わしい。
ふとオウガの方へと視線を向けるとこちらを睨みつけているのが見える。
ふふふっ……。
睨んでいるわね。
よっぽど私が気に食わないのだろう。
それでも私はオウガを手放さない。この人だけは信用できると思っている。この城で唯一信じられる人。私がこんな風に思っているなんて、オウガ本人は露ほども思っていないことだろう。
この城の中には敵ばかりだ。
味方など存在しない。
逃げ出したいが生きるすべが私には無い。
何時間そうしていたのか、辺りが薄暗くなる黄昏時。
そろそろ部屋に戻る時間。
セリカはゆっくりと立ち上がりオウガに視線をやると歩き出した。彼にはそれだけで十分だ。すぐにこちらの気持ちを汲み取ってくれる。部屋に戻ると夕食も食べずにセリカはベッドに潜り込んだ。