東京血風録4 ダークサイド・イリュージョン
黒ずくめの男は無防備だった。

フィンは空手特有の膝を上げてから、前に突き出す様に蹴る動作の中に、2回のフェイントが含まれていた。
まるで波打つかの様な軌道で、男の下腹部を抉った。
刹那、右の掌打のフックで払った。
剛太の最高の一撃が簡単に払われた。驚きは隠せなかったが、次の一手があった。ゼロインチパンチ。距離が無い状態からの一点照射型のパンチは、無敵弾と。
男の胸に密着した拳は衝撃を放つ。
どん!
クリーンヒット!
着弾した無敵弾は、歪んだ回転を生む。
ぐるりと揺らぎながら、男の体は浮いたが、それだけだった。
時計回りに動いた体は、その回転のまま左のハイキックに移行した。疾い!
剛太の側頭部を捉えた。かの様だったがスウェイで間一髪躱していた。
男は着地した。が、しかし。
奇妙な回転は体内に蓄積する。歪んだ回転は男をぐるりと回転させて、地面に頭から落としていた。
すかさず剛太は走り込んでいて、得意のフィンを起きがけの顔めがけて放っていた。
男は飛んで来た足に逆らわず、勢いを利用して体を巻き込んだ。そのまま投げる。脚を引っ張られながら投げられた剛太だったが、なんとかバランスを保ち倒れはしなかった。
これほどか、魔王展とは。
剛太の率直な意見である。
初めて遭遇する者である。禁断の書にて
格段に能力が上がる事は、知っていた。
しかしながら、目の当たりにしてみると
その威力は相当なモノであった。

カミラは校舎の壁の所で、じっと戦況を見つめていた。
初めて遭う仲間である。チャンスがあれば一撃を叩き込むつもりだった。
しかし、侮れない相手である。
もともとの実力もさながら、あの書による能力の向上は如何なるものなのか、自らによって確かめたい。

剛太と男がふたたび対峙した。距離が詰まる。剛太がノーモーションからの前蹴り・フィンを繰り出した。それに合わせるように、男も。
それは、フィンだった。
2人の脚が交錯した。
当たったのは、男の足である。交錯しながら剛太の脚をかいくぐり、その腹に喰らわせていた。しかも、雷撃もまとっていた。剛太が前のめりに倒れた。
そこへ追撃を落とそうとする男。瞬間、飛び込んできたカミラの走り飛び膝蹴りが、男の顔面を捉えた。吹っ飛ぶ両者。
砂埃の中、膝立ちの両者。当たりは浅く男は平気そうだった。
それよりも、カミラは膝蹴りした側の太腿の辺りを押さえていた。
当たり間際に男が撃ったパンチによるものだった。
剛太は倒れたまま。男がカミラに近づいていく。カミラは動けないようだった。
男が、蹴った。
蹴りはカミラに当たる事なく、空中で止まっていた。
その足先には、黒い木刀があり行手を塞いでいた。

王道遥である。










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