お前さえいなければ
エンジとは本当に気が合うとアヤメも思っていた。好きなスイーツや茶葉、好きな本も同じなため話がよく弾む。それに何より、エンジはアヤメのことを誰よりもわかってくれるのだ。

「……そうか、そんなことがあったんだね」

アヤメがエンジに舞の稽古のことを話すと、エンジは優しくアヤメの頭を撫でてくれる。人の温もりがこんなにも温かいのだと、アヤメはエンジの婚約者になって初めて知った。

「俺は、アヤメが頑張っているのを知ってる。人は努力だけじゃどうにもならないことが多いんだ。それを責めたって仕方ないだろ?アヤメは充分すぎるくらい頑張ってるよ」

「エンジさん……」

アヤメの目の前がぼやけ、涙がこぼれ落ちる。胸が温かくて苦しい。そして、思うのだ。エンジのことをこれほど愛してるということを……。

「辛い時はいつでもここにおいで。話を聞くから」

「エンジさん、ありがとうございます。いつも話を聞いてもらってばかりで何もできなくて……」
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