お前さえいなければ
アヤメが俯きがちに言うと、テーブルの上に置いてあった手がギュッと握られる。驚いてアヤメが前を向けば、エンジは真剣な顔をしていた。

「未来のお嫁さんが悲しんでいる姿なんて見たくないからね」

その言葉にまたアヤメは想いを膨らませる。例え、世界中の人がアヤメとエンジが結ばれることを許さなかったとしても、この人と生涯を共にしたい、そう本気でアヤメは考えていた。

アヤメの暗い話が終わった後は、いつものように趣味の話に花を咲かせる。エンジの話はとても楽しく、アヤメの暗くなっていきがちな心をいつも楽しませてくれるのだ。

たくさん笑って話すうちに、夕方が近付いてきた。アヤメはエンジにお礼を言い、迎えに来た馬車に乗り込む。

「またお茶会しようね」

「はい!」

馬車に乗り込むと、エンジが笑顔で見送ってくれる。それがアヤメにとって嬉しくもあり、少し寂しかった。

この会話が幸せの最後になろうとは、アヤメは想像すらしていなかった。
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