√セッテン
「ここの問題覚えてるか? ここはモーメントと摩擦係数の設問だろ?」

「うん、この時には、摩擦係数は0でしょ? だから・……」

山岡は、袖机からシャーペンを取って、回答用紙の裏に図を書いた。

「そこ、そこはちゃんと図に矢印を書き込まないと分からない。その上でABの線上に……」

「ちょっとー、勉強会やめてよー! 特進はどうせ夏休み中に解答演習があるじゃん!」

敦子がベッドの端をバシバシ、と叩いて、山岡が顔を上げた。

「せっかく休んでるのに勉強なんかしたら体悪くなるよっ」

それは結びつかないぞ、と視線を投げるが、敦子とは視線が合わなかった。

こんな光景は特進では日常茶飯事だ。

「あ、でもでも! 千恵に英語教えてもらったじゃん! 今回英語が最高点だったー」

「点数は?」

俺が聞くと、うっさい、と敦子は短い威嚇をした。

やっぱり、赤点はあるんだな、こいつ……。

「明日、花火大会だね。病院からでも見えるかな……あんまり出歩いて調子が悪くなっても困るし、花火大会楽しんできてね」

「でも」

「私はここから見えれば、それでいいから」

敦子が、俺の言葉を遮って声をあげた。

「千恵って、遠慮しすぎじゃない? それって互角の勝負じゃないよ」

あ、敦子?

「早くハッキリしとこうと思ってたんだよね。私は別に、潤を好きな千恵の気持ちまで奪おうなんて思わないよ」

山岡はまっすぐ敦子の顔をみた。

これは、もしかして俺はいない方がいい、という……修羅場、か?

「黙って待ってれば、潤が手に入るとでも思ってる?」

「違うよ!」

思わず椅子をずらして後方に仰け反る。

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