薄氷
疲労が溜まった体を引きずって電車に乗り、帰宅する。
低層の賃貸マンションだ。

エントランスの集合郵便受けに足を向けると、自分のポストの投入口から、分厚い茶封筒がはみ出しているのが目に入り、心臓がかるくバウンドした。

引き抜いて小脇に抱え、足早に自室に向かう。
よくある1Kの単身者用の間取りだ。
狭いながらも自分で選び家賃を払っている自分の城だ。
内側から鍵をかけると、わけもなく安堵感がわいた。

封筒をテーブルに置くと、湯を沸かしカモミールティーを淹れる。
医局の誰だったかがお土産に箱でくれたものだ。
リラックス効果があると聞くので、夜勤明けに飲むことにしている。

封筒を見やりながら、熱いお茶をすすった。
開けるのは一眠りしてからにしよう。

いつものように目覚ましを三時間後にセットして、ベッドにもぐりこんだ。
ここで寝すぎると睡眠リズムを戻すのが大変になるので、寝るのは三時間と決めている。
そんなコツも身に付いてきた。

頭のすみに四角い茶封筒が引っかかっている。
眠れないかもしれないという一抹の不安がわいたが、習慣の力のほうが勝ったようで、ほどなくすこんと眠りに落ちた。
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