薄氷
密やかな夜に、取り出しては指がおぼえているページをめくる。

余白に書きつけられた虚数の公式は、陽澄には永遠に解が見つからない問いだ。
インタビュー記事を読んだことで、その一端は掴めたのか。あるいはさらに謎が深まったのか。

いずれにしろ、読んでよかったと思うことはできた。
彼もまた志深を出て、東京とそしてニューヨークで仕事をしているらしい。

洸暉が同じ街にいる。とはいえ東京は世界有数の大都市だ。
偶然街かどですれ違うなんて、ドラマみたいな都合のいい展開はまずないだろう。

べつに再会を望んでいるわけじゃない———自分の気持ちが自分でもよく分からないのが、いちばん厄介だ。
雑誌を数学のノートを入れている抽斗(ひきだし)に、一緒におさめた。

たとえば、夜な夜なネットを徘徊して、彼の情報を追い求めるような真似はするまい、と誓う。
それはなんというか———見苦しい。ただこの雑誌を手放すことはできなかった。

会いたいというより、洸暉に聞きたいことが一つできてしまった。
『当時の僕には、黙って見送ることしかできませんでした』

今の彼なら…どうするのだろう?
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