白鳥学園、いきものがかり


────────それは全員が見ていた。


撮影中の傑はあるスタジオで休憩を取っていた。
スマホを手に取り、時間を確認し溜息を吐く。紬に会いに行ける時間帯では無かったからだ。

「スグル!出番よ!」

美咲がいくら呼んでも傑は一向に準備を始めようとしなかった。

手に持つスマホで流れる一本のCMに釘付けになっていたからだ。


「………ふざけるなよ…」




翔は新曲発表の為にある番組に出演していた。
生放送でのカケルの姿に大盛り上がりだ。

「CM入りまーす!」

受け取った水を飲もうとした翔はある画面を見て動きが止まった。
女性タレントは翔に近付き、顔を赤らめ話しかける。

「あ、あのカケルくん。今日良かったらこの後食事でも…」

そんな言葉は翔には届かない。


「……あの野郎」




暗い部屋の中、唯一の光はテレビだけ。
そこで凪は体育座りをしていた。

しかしあるCMが目に入り頭を上げた

バギッ!!

リモコンがテレビに当たった。画面が割れ真っ暗になる。


「…俺の紬だ…俺の…」




累は次の撮影場所へ向かう為象山務の運転に揺られていた。
信号で止まり、外の景色を眺める累。

モニターに映し出される見覚えのあるCM。

「あ、そういえば今日からだったね。ルイの新CM」

務がそう言うと、累は口元を緩める。


「うん。紬と俺の、」


仕事帰り。学校帰り。人々は皆顔を上げた。
ルイの初めて見る微笑みに顔を赤らめ指をさす。


そしてその日、ある言葉がトレンド入りを果たす。


”あのルイを笑わせたのは一体誰だ?”と。



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