白鳥学園、いきものがかり
鉄の味がする。
…私には吐き出させてまで口の中を綺麗にしたのに。
薬を飲んでから凪の身体を押した。
さっきまでの乱れた呼吸も落ち着き、気持ちにも余裕が出来る。
凪は帰ろうとする私の腕を引き、抱き寄せた。
「病院…行くから」
「俺も行きます。一緒に」
……そんなの嫌。
「紬は…俺を置いていきませんよね?」
「っっ…、」
なんて答えていいのか分からない私の身体を凪は更に強く抱きしめた。
「紬はあの女と違いますよね?」
あの女…多分おばさんの事だ。
「俺を置いて行ったあの…糞ビッチと同じ事なんてしませんよね?」
「っ…凪…い、痛い……」
強く私の身体を抱きしめる凪が、私の顔を包む。
ポタッ、凪の瞳から落ちた雫が私の頬に当たる。
「俺を一人にしないで……紬、」
っっ────────、
おじさんに家の鍵を預かった時、おじさんは凪のトラウマを教えてくれた。
まだ小学生だった凪。
母親が大好きだった凪。
そんな母親に……、
”あんたなんて産むんじゃなかった。”
私は凪の背中に手を回し力を入れた。
視線の先は凪の方を向いたままだ。
「うん…離れないよ。だから泣かないで」
「………紬…、」
私が凪を拒んだから。凪にあの時のトラウマを思い出させてしまったから。
「俺にはもう紬しかいない…、」
「そんな事無いよ」
凪は左右に首を振った後、顔を近付けた。
「いいえ。俺には紬しかいません。…要りません」
………っ、!
顔を逸らした。凪の唇が頬へと触れた。
「…ファンの人達だっているし、おじさんも…それにみんなもいるでしょ?だから凪は一人じゃない────────、」
思いっきり凪の方に顔を向けられた。
あまりにも突然で痛みが走る。
「紬しかいない。俺には。だから紬も俺だけ見てください。他じゃなく、俺だけ愛して俺だけを想ってください」
そう言って、唇が触れた。