悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!
あまりの恐ろしい嘶きに、ざわついていた人々が一気に静まり返る。

ドンドンと地面を踏み鳴らす地響きのような音とともに、先ほどドラドの子供が飛び出してきた茂みから、今度は巨大な白い獣が姿を現した。

背の高いリシュタルトよりもさらに大きな白狼が、ぎゅるぎゅるという音をたてて歯を食いしばりながら、こちらを睨んでいる。

瞳は烈火のごとく燃え盛り、幾重もの鋭利な牙がギラギラと光っていた。

「ドラドだ! 獰猛化している、危険です!」

ダスティンが大声を張る。従者たちは怯えながら後ずさりを始めた。

(これが、ドラド……)

ナタリアは初めて見るドラドに衝撃を受けていた。

怒りで逆立つ毛は針のように鋭く、赤い瞳は血のようだ。

そこにいるだけで空気が張り詰めるようなおどろおどろしさ。

(私たちを恐れているわ)

怖いと思うよりも先に、ナタリアはそう感じた。

リシュタルトがその場にしゃがみ、ドラドの子供に声をかける。

「母親が呼んでいる。もう行け」

リシュタルトの金色の瞳がきらりと光る。

ドラドの子供は瞳の輝きに魅せられたように目を見開き、くるりと背を向けると、茂みの前でこちらを威嚇している母親のもとに戻っていった。

母ドラドはようやく唸るのをやめ、子供の首根っこをくわえると、茂みの向こうへと姿を消した。

「いやあ、さすがは皇帝陛下! 皇帝陛下の貫禄を前に、ドラドも怯えて逃げてしまったようです!」

ダスティンがリシュタルトを大げさに賛辞する。

「さすがだな」

「皇帝陛下がおられなかったら間違いなく襲われていたぞ」

周りの村人たちも、しきりに湧いていた。

ダスティンが、リシュタルトの前に歩み出る。

「ドラドの様子をお分かりいただけましたでしょうか? いつまた怪我人が出るか分からない状況に、私たちは怯えているのです」
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