溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「ううん、なにもない。たぶん、夏バテ」
「なんで嘘つくんだよ、いつもいつも」
「嘘なんてついてないよ」
「なら、なんでそんな顔してんだよ……!」
声を荒らげた元木くんは私の肩をぐいっと掴んで、正面から私を見据えた。
眉間に皺を寄せ、悩んでいる私よりもずっとつらそうな顔で、ただジッと、こちらを睨んでいる。
私は言葉を探しながら口を開きかけては噤み、しばらく経ってから、ようやく喉の奥から声を押し出す。
「……さび、しい」
「えっ?」
けれど、元木くんに聞き返されて、我に返る。私はいったいなにを言っているんだろう。
「出張……にね、週末、行っちゃうんだ。それが寂しいなって。博多、遠いから」
私はそれらしい理屈をこねて、元木くんに苦笑してみせた。
維心さんが出張先で、女性と会おうとしている。でも私はそれを咎められる立場じゃない、単なる子作り要員の妻なんだよね……なんて言えるはずがない。
もしも元木くんがこのことを知ったら、絶対に怒って、維心さんを罵るだろう。それと同時に、目を覚ませ、お前は愛されていないんだと、現実を突きつけてくるに違いない。
それが怖いから、本当のことなんて言えないよ……。