溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

 お母さんが赤ちゃんにそう話すと、ベビーカーの中から「だぁ」とかわいい声がする。

 少し首を伸ばしてべビーカーを覗くと、丸々太った赤ちゃんがいた。小さな瞳は外の世界に夢中できらきらしていて、一点の曇りもない。

「日曜日はパパと来ようね」

 お母さんはニコニコしながらそう言って、私のそばを離れていく。

 あの赤ちゃんの目が、あんなにも澄んでキラキラしているのはきっと……愛情深いパパとママのもとに生まれ、たくさんの優しさを受け取っているからなのだろう。

 じゃあ……私たちの子は?

 ぼんやりと遠くの木を見つめながら、私はつい今しがたの記憶を思い返す。

『今、五週目の真ん中あたりですね。心拍も見えましたから、正常に妊娠されてますよ』

 産婦人科の先生は、にっこり笑ってそう言った。

 まだ米粒ほどの赤ちゃんは、胎児ではなく胎芽と呼ばれるんだそう。私のお腹の中で、文字通り小さな芽を出したところ。

 でも、超音波検査にはきちんとその存在が映っていて、ああ本当にここにいるんだって思ったら、無条件に愛おしさが湧いて、涙が出た。そして同時に、赤ちゃんに対して申し訳なくなった。

< 177 / 240 >

この作品をシェア

pagetop