溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「悠里」
「はい」
顔を上げた俺は、悠里の両手をギュッと握って語り掛ける。
「俺は、きみが入社して営業部に配属されたその日に、恋に落ちた。人生で初めてのひと目惚れだった」
悠里が驚いたように目を見張り、頬を赤らめる。俺はそのまま過去を一つひとつなぞって、遅すぎる告白の続きを口にする。
「それから間もない春の夜、オフィスでひとりすすり泣いていたきみを見て、なにもできない自分がもどかしかった。もしもきみを泣かせているのが男だとしたら、許せないと思った」
「すすり泣いていた? 私が?」
静かに話を聞いて居た悠里が、不意に眉根を寄せて首を傾げる。俺の記憶には鮮明に残っているのに、本人は覚えていないのだろうか。
「ああ、ティッシュで鼻までかんで盛大に泣いていたぞ」
なにがそんなに彼女を悲しませるのかと、清水課長に探りまで入れたくらいだ。
「維心さん、それってたぶん……花粉症、です」
「花粉、症?」
ということは、彼女を泣かせたのは仕事でも男でもなく……。
「はい。その時はたぶん薬を飲むのを忘れて……鼻も目も、痒くてつらかっただけかと」
俺はふっと気が抜けて、思わず笑いをこぼした。本当に、俺は馬鹿だ。あの時声を掛けていたらすぐにわかったことなのに。