溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

「そうか。承知した」

 維心さんはこれまたおかしなほど真面目な返事をして、傾けた顔を近づけてくる。

 きっと、短いキスを一度するつもりだ。ドキドキしながらも今度はちゃんと目を閉じ、もう一度あの甘い唇が触れるのを待つ。

 まだかな。さっきは驚きであまり実感がなかったけれど、今度はちゃんと維心さんの唇の感触を覚えたい。

「……ダメだ」
「えっ?」

 胸を熱くしてキスを期待していた私の耳に、ボソッと呟く維心さんの声が聞こえた。

 目を開けると、維心さんは私の目の前でひとつため息をこぼし、運転席の方に体を戻してシートに深く背中を預ける。

 ダメって、なにがだろう。私に、なにか彼を萎えさせるような問題が?

 まさかとは思うけれど、鼻毛が出ていたりなんて――。

「短めという条件も一度だけという条件も、守れそうにない。大人しく家まで我慢しよう」

 鼻を隠すように両手で押さえていたら、彼の口から予想外すぎる甘い発言が飛び出し、鼻毛より鼻血が出そうになった。

 しかし彼は恥ずかしいセリフを吐いた自覚などまるでないようで、涼しい顔をして今度こそ車を動かし始める。

 維心さん、そんな不意打ち、ずるいです……。

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