溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

「なにか大事な用時?」
「いや、早坂を追いかけてきたからさ」
「私?」

 首を傾げたところで、エレベーターが到着して目の前の扉が開く。すると偶然降りてきたのは維心さんで、ドキッとしながらも「お疲れさまです」と他人行儀に挨拶する。

「ああ、お疲れさま」

 維心さんもビジネスライクにそう返し、すぐに営業部の方向へ歩いていったので、緊張が解けてホッとする。

「で、なんの話?」
「今すれ違った人の話、なんだけど」

 ふたりで乗り込んだエレベーターが下降しはじめたところで、元木くんが気まずそうに切り出す。

 もしや、維心さんとの結婚について突っ込まれる? 同期の彼ですら寝耳に水の話だろうから。

「驚いたよね。急に結婚だなんて」
「ああ。いつから付き合ってたんだ?」
「それは……」

 そうか、普通の結婚だったら交際期間というものがあるんだ。いつからだったかな、と記憶を辿るふりをして、内心だらだらと冷や汗をかく。

 交際ゼロ日の子作り婚だと正直に話したら変に思われるだろうし、どうしよう。

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