溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

「ふうん……ならいいけど。部長が早坂の前でデレデレしてる姿とか見たことないからさ。早坂がなんか不安になってんなら、話聞いてやりたいなって思って」
「ありがとう。大丈夫だよ」

 本当は、謎だらけで不安だらけの結婚生活だけれど。課長に言われたように、維心さん自身と向き合って、話をしなきゃ。

 元木くんとの話が一段落したところで、自動ドアからビルの外に出る。

 外は暗いがまだまだ熱気に満ちていて、アスファルトに囲まれた都会特有の夏の匂いがした。

「じゃ、また明日」

 ビルの前でそう言って、片手を上げる。元木くんはしばらく黙りこくった後、なにか言いたげに私を見る。

 その時、会社の地下駐車場の出口から見覚えのある高級車が出てきた。そして、歩道の手前で左右を確認する運転手――維心さんと一瞬目が合う。

 帰るところかな? さっき営業部に戻る彼と会ったばかりなのに、出てくるのがずいぶん早いような。

 不思議に思いつつも笑顔を作り、軽く会釈をする。けれど維心さんはすぐに目を逸らして運転に集中し、車はゆっくり車道に出ていった。

 目が合ったと思ったんだけど、気のせい? それとも、わざと無視した……?

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