恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 我が社はテレビ通販を主としていることもあり、数年前に会社の敷地内に本格的なスタジオを作ったのだそうだ。
 契約をしているタレントが何名かで収録をしたり、生放送を行なっている。
 私はまだ入社して一ヶ月と少しなので、その現場は生で見たことがなく、一度見学しておきたい願望が以前からあった。

 副社長に連れられてスタジオに足を踏み入れると、スタッフが私たちに挨拶をしながらも忙しそうに準備を進めていた。

 ひときわ明るい照明が当たっている場所には、白のオシャレなスーツに身を包み、綺麗にメイクをした女性が台本を眺めている。本日のMCを務める簑島(みのしま)なつみさんだ。
 
「どうした?」

 私がボーッとしていることに気づき、副社長が小さく声をかけてくれた。

「すみません、簑島さんがすごく綺麗で見とれてました。四十代とは思えないですね」

「ああ。うちが扱う商品を紹介してもらうにはうってつけの人だ」

 “美魔女”という言葉は、簑島さんのような女性を指すのだと思う。
 四十代前半の年齢であるにもかかわらず、二十代だと言ってもおかしくないくらいのつやつやな肌が若々しい。
 実年齢が二十代の私のほうが、彼女よりもよほど疲れた肌をしている。日々の手入れの違いが出ているのだろう。

 生放送が無事に終わって、副社長がスタッフに労いの言葉をかけてまわり、私たちはスタジオをあとにした。

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