恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 私はペーパーバッグの中の紅茶を眺めつつ、副社長の最後の言葉が意外すぎてブンブンと首を横に振った。
 マウントを取られたとか、そんなふうに思うはずがない。お互いに元々張り合ってはいないのだから。

「今のはお母様が聞かれたら悲しまれますよ。……せっかくのご厚意なので、これは遠慮なくいただくことにします」

「海老原はその鈍感な部分が、メンタルを強くしているのかもな」

「今、(けな)されていますか?」

 間髪入れずに真顔で聞いたのがおかしかったのか、副社長が吹き出すように声に出して笑った。

「控えめなのに物怖じしない性格だし、あんまり落ち込んでるところは見たことがないから褒めたんだよ」

「褒められた気はしませんでしたが」

 “鈍感”だと言われたのは、昼休みの秋本さんに続いて本日二度目だ。まったく違う場面でふたりの人間から言われれば、自分が自覚していないだけでそうなのかもと思えてくる。

 とりあえず気を取り直し、紅茶のお礼の電話をしたいと伝えると、副社長が自分のスマホを取り出してかけてくれたのだけれど、お母様には繋がらなくて留守電になってしまった。
 直接言葉を交わしたかったが仕方がない。私は丁重にお礼のメッセージを入れて電話を切った。
 お母様がわざわざ取り寄せてまでお気に召しているこの紅茶は、いったいどんな味がするのか楽しみだ。今日帰ったら早速味わってみよう。

< 61 / 139 >

この作品をシェア

pagetop