バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて
おぉ、お姉さん攻めるね___って、だからなんでいちいちこっち見ながらなの?え、何の意味があるの?牽制かな?
牽制のつもりなら安心していいよ、あたしショーマのことマジで狙ったことないから。
「俺の番号は誰も知ることのない秘密の番号なんです」
ショーマはいつもそうやって断る。
誰にも一度として教えたことがない連絡先。
どうして教えてあげないのか訊いたことあるんだけど、「アヤナには絶対教えない」の一点張りでマジで教えてくれなかったから、この先何度聞いても教えてくれないだろうと察してもう二度と訊かないことにした。
「そう、残念」
今回もショーマは女性に教えることはなく作り終えたテキーラ・サンセットをあたしの前に差し出した。
ありがとう、とお礼を言って口に含むと一気に口いっぱいレモンが広がる。
嗚呼、美味しい。
今日は昨日のようにはならないような飲み方をしなきゃな…あの状態で帰れたことが奇跡だし。
どうやって帰ったのかなんて分からないけど。
「あ、ショーマ」
「ん?」
お姉さんのものを作り終えたショーマに声を掛けると、あたしの声が聞こえる範囲まで来てくれる。
「ショーマの作るカクテル好きだよ」
あたしは素直に気持ちを伝終えると、ちょっと照れたように「さんきゅ」とお礼を言われた。
照れてる、照れてる、耳が真っ赤だよショーマ。
そんな彼が時折可愛くて愛おしい。
「今日は飲みすぎないでよ」
「分かってるよ」
だからこうしてペース配分考えて飲んでるでしょ。
昨日みたいに品のない飲み方はしないから。
「昨日みたいに知らない男がお持ち帰りするのを止めるのなんて勘弁だからね」
「え?」
お持ち帰りって、なにそれ?
昨日のあたしに何があったの?
ショーマの話によると、昨日ベロベロに酔ったあたしに1人の男が近づいたらしく、「嫌だ、まだ飲む」と嫌がるあたしを無理矢理連れ出そうとしていたらしい。
それを見かねたショーマが男をお店から追い出したらしい。
「それは、ご迷惑をおかけしました…」
「ホントだよ。タクシーで送るのも大変だった」
「うぅ…申し訳ねぇ」
思ったけど、考えたらあそこまで酔い潰れたのは初めてだ。
ショーマにはとんだ迷惑をかけちゃったな。
「…ごめんね」
「反省してるならいいよ」
そのかわり、もうあんな飲み方をするのはやめてね。そういってどこか悲しそうに微笑んだショーマのことが気になった。
どうしたの?と首を傾げるも「なんでもないよ」とはぐらかされてしまった。
本当、どうしたんだろう。変なショーマ。
グラスに入っていた残りを飲み干そうとした時、ショーマに「同じものをお作りしますか?」と訊かれ、次は別のものを飲もうか迷った。
もうテキーラ・サンセットはいいかな。
“慰めて”なんてどこまでも図々しいことできないし。
「ううん。ショーマのおまかせでいいよ」
「そう」
「あたしに飲ませたいもの作ってよ」
口の端を上げて笑って見せたあたしに「了解」とだけ言って次のお酒を作り始めたショーマ。
その間にグラスに残ったお酒を喉を通して体の中に流し込んだ。
「美味しい」
…やっぱりショーマの作るものは美味しい。