バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて


「っん……」




次の日なんて来なくていい、アレが夢ならなおさらいい___なんて現実逃避は無駄でしかないようで、当たり前のように次の日は来るし、アレが夢じゃないことは怠い体と泣き腫らした目が何よりの証拠。




「最悪…こんな顔で会社に行けない」




それくらいひどい顔をしていて、あたしは仕方なく会社を休んだ。


はぁ…熱だなんて嘘ついて休んでしまった。


まずこの目をどうにかしないといけない為、ホットタオルとアイスタオルを交互に目に当てた。


何とかさっきよりはマシになったけど体の怠さが抜けない。



あたしはお酒に強いから二日酔いはしないものの飲みすぎたし、泣きすぎて体力奪われたし、メンタルブレイクしたのが重なってとても怠い。

起きてからどのくらいの時間がたったのかと時計に目をやればもうお昼近くを針がさしていて、朝ご飯というには遅い時間帯だった。


これはもうお昼ご飯の時間か…と思いながら重い腰を上げてちゃっちゃと作った野菜炒めで軽くお昼を済ませると家の掃除やら洗濯物やらと気分を誤魔化しながら家のことをやった。



気づけば時計の針は3時を回っていて、もう3時か1日が終わるのは早いな…なんてまだ終わってもない1日を名残惜しくなっていた。



やることもやって他に何をやろうとボーっとしていたら思い浮かぶのはユアの顔。


思い出すだけで目頭がじんわり熱を持つ。



「一目…一目だけでいい。最後にユアを見に行こう」



遠目でもいいから、それでも最後にユアを自分の中に焼き付けておきたかった。


ユアは大学3年生で、水曜は朝から必ずバイトをしている。

そして必ず4時には上がるんだ。


決してストーカーなんかじゃない。だってこれはユアが教えてくれたことだから。


あたしは4時に合わせて準備をして家を出ると、ユアのバイト先まで電車で向かった。



時刻は午後3時53分。


何とか間に合ったあたしはカフェの向かいにあるファストフード店に入って窓際の席に座った。


カチカチと迫る時間にドキドキと胸が鳴る。


これで最後だと言い聞かせながら待ったあたしの前に、ユアがついに現れた。


店の裏から出てきたユアに切なくも頬を緩ませたあたしだったけど、その表情をすぐに強張らせた。



「あぁ…そっか、」



ユア、その子なんだね。



「勝てるわけ、ないよっ…」



ユアの隣には女のあたしでも護ってあげたくなってしまうほど可愛らしい女性が立っていた。


その女性は半年前にユアと同じカフェで働き始めた子で、可愛いなとは思ってた…けどまさか。



「ほんと…勝ち目ないっ」



彼女を見つめるユアの視線が見たことないくらい優しくて、本当に愛おしいものを見るような目をしていて心が痛くなった。



現実を目の当たりにして昨日以上に心が張り裂けそうになった。


あたしは昨日みたいに泣かないよう我慢しながら慌てて家に帰って、結局死ぬほど泣いた。



隣の部屋の人に迷惑だろうな、だとか思ったけどそんな心遣いできるほどの余裕は残ってなくて…せっかく腫れを引かしたっていうのにあたしはまた泣いてしまった。



「学習、しないなぁ…っ」


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