導かれて、放れられない
ホールに戻りVIP席を見ると、輝美が天聖にべったりくっついて絡み合うように話していた。
このクラブのVIP席はガラス張りで、音や話し声は聞こえないが中の様子は見ることができる。
輝美は目の端に、桔梗に見られていることを感じながら、わざとに天聖にしがみついていた。

「あぁ…確かに嫉妬って醜い。
だって今、あの人を絞め殺してしまいたい……」
賑やかな店内。
桔梗の呟きなんて、聞こえない。

桔梗はいままで感じたことのない、嫉妬という痛みと苦しみで動けなくなっていた。

桔梗は自分の右耳のピアスに触れた。
「大丈夫。これは私が天聖さんのモノって証。
てことは、天聖さんが私のモノって証なんだから…」
そう呟き、必死に気持ちを抑え込んでいた。

「君、新人さん?」
「え?」
「でも、地味だね、君」
「は?」
失礼な人だと怪訝そうに男を見た、桔梗。

「まぁいいや!そこ退いて!」
そう言って、スマホを取り出した男。
「あー、もしもし!いいぜ!」

その言葉を合図に━━━━━

「こんばんはぁ~!」
「ママ~、俺達に酒飲ませて~!!」
「あ、もちろんVIP席でね~」
と強面の男達数人が店内に入ってきた。

「あら、今日はうちのパーティーですからご遠慮いただくようにお願いしたはずですよ?」
「はぁぁ?俺達が守ってやってんでしょ?」
「そうですわね。でも最近は大丈夫ですよ」
「でも、物騒だよ!
俺達みたいな連中に襲われてるよぉ~
こんな風に━━━━━」
ガッシャーン━━━━!!!!
男の一人が、近くにあった花束が入った大きな花瓶をおもいっきり蹴った。

「なーんちゃって(笑)!」
「ちょっ……お客様がいるんですよ!!
今日はもう…ご遠慮下さい!」
必死になだめ、店から出そうとするママ。

それを店内の端から見ていた、桔梗。
隣にいた男に、話しかけた。
「あの、知り合いなんですよね?
さっきの電話……」
「あーまぁね。おもしろいじゃん!」
「え?」
「なんかむしゃくしゃしててさ……」
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