とろけるような、キスをして。
「……お父さん。お母さん」
私の両親は、もういない。
私が高校三年生の時に、事故で亡くなったのだ。
「……あれからもう、大分経ったな」
「……先生」
私が戻ってこないから心配したのだろうか。
先生がドアの前で私が手に持つ写真立てを見つめながら言う。
もちろん先生も、私の両親が亡くなったことを知っている。
「ねぇ先生」
「……ん?」
穏やかな声に、一瞬言葉を詰まらせる。
「……私って、薄情な娘かなあ?」
「……なんで?」
隣に並んだ先生は、私の頭にそっと手を乗せた。
「言い訳にしか過ぎないんだけどさ。
……私ね?何も知らない子どもだったから、一周忌も三回忌もよくわかってなくて。……そうなったら知った後も行きづらくて、七回忌も来なかったの。……全部、そういうのは晴美姉ちゃんの家族がやってくれたの」
あの頃はまだ子どもで、法要なんて全く知識も無くて。
よくわからないまま葬儀と納骨を終えて、相続の話なんかも親族がやってくれて。
自分では何一つしないまま高校を卒業して、着の身着のまま上京して就職した。
「あの時は誰にも言えなかったけど。一人ぼっちのこの家に住むのがつらくて、両親がいないこの街にいるのが苦しくて……。逃げ出した。そうしたら、今度は帰ってくるのが怖くなっちゃって」
晴美姉ちゃんにも散々迷惑をかけた。
親戚にも、合わす顔がないとさえ思うほどに、迷惑しかかけていない。
さすがにお祝いの場の雰囲気をぶち壊すことはしたくなかったため、近いうちにちゃんと頭を下げに行くつもりだ。
特に晴美姉ちゃんのお母さんである伯母さんには、何度謝っても足りないかもしれないくらいだ。