とろけるような、キスをして。



───
──



 高校一年生の入学式の日。


 あの日の、そう。厳かな雰囲気に疲れきってしまった入学式の後。


 私は元々方向音痴で道を覚えるのが苦手だったため、翌日からの授業で困らないようにあらかじめ学校の中を見て回りたいと思って歩いていた。


しかし、案の定迷子になってしまったのだ。


その時にたどり着いたのが、旧校舎にある図書室だった。


 あの日の空も、雲一つ無い綺麗な快晴だった。


 図書室には誰もおらず、開いた窓から柔らかな春の空気が入ってきていた。


レースカーテンが揺れる音だけが聞こえる、静かで小さい場所。


 元々あまり使われていなかったのか、どことなく暗い印象のそこで、私は先生に出会った。


奥にテーブルがあるのを見つけ、ちょっと休ませてもらおうと、そこにあった椅子に座った時。



「……あれ?誰かいる?」



 突然聞こえた低い声に、私はバッと振り向いた。


 今よりも若い、深山先生がそこにいた。



「どうした?こんなところで。新入生か?」


「……あ、はい。校舎の中を見ていたら、迷っちゃって……」


「あぁ、この学校無駄に入り組んでるからな」
わかるわかる、と頷く先生は、私の向かいに腰掛けた。


「俺は深山修斗。ここの教師。って言っても俺も君と同じ新入生だけどね」


「……新しい、先生?」


「そ。新卒。なのに入学式の後から急にここの整理しろって言われてさ、雑用押し付けんのとかやめてほしいよね」



「あ、これ他の先生には内緒ね?」と両手を合わせる先生の甘い笑顔に、私は心が震えたのを思い出した。



 ───そうだ、あの時から、先生と仲良くなったんだ。


< 20 / 196 >

この作品をシェア

pagetop