とろけるような、キスをして。



「こういうのって、普通春休み中にやることだと思うんだけどね。何で新任の俺がこんなことしなきゃいけないのかなー」


「……」



 話を聞くと、深山先生が一人でこの図書室の片付けを頼まれたらしく、一週間以内には終わらせないといけないと嘆いていた。


どうやらこの図書室には、本の他に学校の資料なんかもあるらしい。



「そういえば名前聞いてなかったね」


「野々村、美也子です」


「美也子ちゃんか。ははっ、なんか猫みたいだな」


「え?」


「ほら、髪も黒いし、綺麗な猫目だし、黒目大きいし。可愛い黒猫の"みゃーこ"って感じ。俺、猫好きなんだよね」



 そんなくだらない会話から生まれたあだ名。それ以来先生はずっと、私のことを"みゃーこ"と呼ぶ。


他の先生の前でも生徒の前でもみゃーこと呼ぶもんだから、いつしかそれが皆に定着してしまい、高校での私のあだ名はみゃーこ一択だった。


 先生の愚痴を散々聞かされた後、そのお礼と言って簡単に学校案内をしてくれて、玄関まで私を送ってくれた。


一人で玄関まで行ける自信が無かったから、本当に助かった。


 あの日以来、私は学校が終わると旧校舎の図書室の片付けを手伝いに行くようになった。


最初は先生も驚いて、気にしなくていいと言ってくれたけれど。


 一目見て、私はあの図書室が気に入ってしまった。


空気感、本の香り、柔らかな風、カーテンが揺れる音。


 教室とは違う、静かで独特の落ち着く空間。いつしかそこに通うのが日課になっていた。


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