とろけるような、キスをして。
そうだ。思い出した。あの入学式の日に私と先生は出会ったんだった。
あれから日を重ねて、気が付けば仲良くなっていた。
先生は担任じゃなかったけれど、数学教師だから先生の受け持ちの授業はよくあって。
わからない問題もよく職員室に聞きに行ったっけ。
一つ謎が解けたみたいで、胸の支えが取れた気分だった。
十分ほど歩いて足を踏み入れた旧校舎の図書室は、あの頃とは少し変わってしまっていた。
「本棚、動かしたんだ?」
「そう。これも俺がやったんだよ。みゃーこみたいに手伝ってくれる生徒なんてもういないから大変だったよ」
「ふふっ……先生はここの担当になっちゃったの?」
「そう、俺とみゃーこがここに入り浸ってたの知ってた四ノ宮先生に押し付けられた」
「ははっ!晴美姉ちゃん酷いねっ」
大きな本棚が三つ縦に並んでいたものの、今は奥の方に移動しており、手前には小さな本棚がいくつか並んでいた。
奥の方にあったテーブルが逆に手前に来ていて、窓から近くなっていた。
「よく窓開けて、ここで喋ってたね」
「そうだな」
「懐かしい……」
先生は、ゆっくりと窓を開けて、椅子に腰掛けた。
「みゃーこも。座れよ」
「うん」
先生の向かいに腰掛けると、あの頃と同じ柔らかな風が頰を撫でる。
秋晴れの空気はどこか寂しげだったけれど、温かみがある。
しばらく目を閉じながら、その空気を感じていた。