茨ちゃんは勘違い
そしてもう一人、その様子を窺う犯罪者予備軍が居た。

安部義和、彼もまた、先の一件で茨にフラレた一人である。

用具入れの陰に隠れながらチラチラちら見する様は、挙動不審さが前にも増してグレードアップしている。

人として、グレードダウンしている気がするが。

この男もまた、茨の事が気掛かりになっていた。

何故だかは本人にも分からない。

一つ言える事は、無関心であれば不審者丸出しな真似はしないという事か。

「僕は城山さんを見ている訳じゃなく、白石さんをガン見しているだけ……白石さんをガン見しているだけ……」

自分の中に芽生えた何かを必死に否定するように復唱する様は、異様としか言い様がない。

それ以前に危険過ぎる内容な気がする台詞なのだが。

この安部といい、木更津といい、茨という新鮮かつ刺激的な棘……いや毒気に晒されて、頭のネジがぶっ飛んでいるとしか考えられない。

誰が好き好んで、性格も外観も超絶不細工の虜になる等という、生物誕生以来の珍事を起こすだろうか。

物好きとか奇特とか、そういう次元では計り知れない魅力があるとでもいうのだろうか。

人の道を踏み外しかけている男子二人は、本人も気付かぬ内に、どういう訳か茨に興味を示してしまっていた。
< 100 / 224 >

この作品をシェア

pagetop