託宣が下りました。
(誰に……言っているの?)

 いえ、わかりきっています。先ほど馬に飛んできたという何か。それを投擲(とうてき)した人物。
 この馬車は明らかに()()()()()()()。――いったい誰に?

「お姉さん、ご無事ですか!」

 やがてドアから一人の男の子がひょっこり顔を覗かせました。

「カイ様……」

 わたくしは箱の中に座り込んだまま、ぼんやりと彼の顔を見つめました。勇者ご一行のお一人、カイ様。魔法陣を含む魔術の天才です。

 カイ様はわたくしとラケシスを交互に見て、相好を崩しました。

「良かった。遅くなってすみませんでした」
「そんな、とんでもないですカイ・ロックハート様」

 ラケシスが敬礼しそうな勢いで言いました。どうやらラケシスにとってカイ様は尊敬の対象のよう。

 カイ様は「え、えっと」ドアの陰に半身隠れながら、ぼそぼそと言います。

「御者さんは骨折なさいました。他にも打撲を……で、でも命に別条はありません」

 後ろの馬車に乗せています、と言われ、振り向くといつの間にか立派な四輪馬車が後ろについてきています。カイ様たちの馬車なのでしょうか。

「そう……良かった」

 わたくしは胸をなで下ろしました。けれど骨折と打撲です。さぞ強く体を打ったでしょう。これは父にちゃんと処置をお願いしなくてはなりません。

「いったい何が起こったのでしょう? カイ様はご存じなんですね?」

 ラケシスがカイ様に丁寧な口調で問うと、カイ様は半分隠れたまま視線を泳がせました。

「知っては……います。でも今はまだ言えなくて」
「なぜですか。狙われたのは姉か私のはずです。私たちには知る権利がある」
「そ、そうなんですけど。ごめんなさい、言えませんっ」

 カイ様がいっそうドアの陰に隠れていってしまいます。ラケシス、それくらいにしてあげて――。
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