託宣が下りました。
「絶対に生きて戻ってきてください……ね」
いつの間にか巫女の声に変わっている。巫女は本当に優しいとソラは思う。どうもいつも考えすぎだし、自分のことでいっぱいいっぱいになってる感はあるけれど、それでも優しい。
何だか空気が変わっているのがソラにも分かる。甘い何かが、暗闇にしみこんできている。
もしやいちゃついているのか? ああ背中を向けて眠るんじゃなかった!
「無事に倒したらご褒美をくれないか」
「……何がほしいのですか」
「そうだな。もう一度口づけを許してほしい」
馬鹿! 馬鹿兄! どうしてそこで遠慮する! 今しろ今!
何なら今ここで“押し倒して”もいいくらいだ――ソラは日頃読んでいる本に出てきたフレーズを使ってみる。押し倒したあとどんなことになるのかは、残念ながら知らないのだが。
というか兄は今どこにいるのだ。窓にしがみついているのだろうか?
……やっぱり寝返り打ってみてもいいかな?
ソラは悩んだ。とても悩んだ。寝返りを打ったらこの甘い空気は壊れてしまうだろうか? 砂糖菓子が溶けるようになくなってしまうだろうか。
でも、見たい。お兄ちゃんを見たい。巫女とどんなことをしているのかが見たい。
十歳の好奇心は抑えきれなかった。ソラは思い切って寝返りを打った。兄たちのいる方向へと体を向けた。
「ん、ソラが起きそうだな。帰るか」
馬鹿馬鹿馬鹿兄――!
ソラは固く心に誓う。いつか兄と巫女が結ばれたならそのときは、きっと二人のいちゃついている姿を真正面から見てやるのだ、と。
そして彼女は今日も意気込んで人形を操るのだ。大好きな兄と、大好きな巫女の距離を近づける方法を探るために……。
(妹、決心する/終わり)