託宣が下りました。
第五話 あなたらしくありません。

 サンミリオンは小さな都市です。その中央部に我が実家はあります。

「いいお宅ですね」

 屋敷を見てそう言ってくれたのはカイ様。その隣でソラさんがふんと鼻を鳴らし、「ふつうだ」と言います。

「ソラちゃん、失礼だよ」
「世辞を言って何になるんだ?」

 わたくしはくすくすと笑いました。ソラさんは父が町長と聞いて、もっと豪勢なのを期待していたのかもしれません。

 残念ながら我が家はこじんまりした屋敷です。これは父が町長になる前、結婚したてのころに建てた家で、それ以降忙しすぎて引っ越す暇も建て直す暇もなかったようです。

 ただ、我が家は使用人が二人おりますので――。一般家庭並みの生活、とは言いがたいでしょうか。



 呼び鈴を鳴らすと使用人が現れ、わたくしたちの荷物を運び込んでくれました。

「奥様が居間でお待ちです」
「そう……」

 母が居間にいる。それを聞いて、わたくしは緊張しました。
 後ろでラケシスが慌てて言います。

「大丈夫だよ姉さん。……たぶん」
「たぶんってなに、たぶんって」

 カイ様とソラさんが疑問符を浮かべています。わたくしは笑ってごまかして、二人を居間へと招待しました。

 お客さまを二人連れていることは、あらかじめ伝令で報せています。母は準備して待っているはずです。

 四人でおずおずとくぐる居間へのドア――。

「まあ、ごきげんよう」

 入るなり、誰かがソファから立ち上がりました。
 わたくしは即座に身構えました。

「お母様」
「アルテナ。よく帰ってきましたね」

 こちらに歩み寄りながら、母――ソフィア・グランデ・リリーフォンスはにっこりと微笑みました。

 笑うとき首をかしげる癖のある母。美しく結い上げた髪が、それに合わせてわずかに揺れます。

 優雅で華やかなドレス姿であるこの母は、元貴族の末娘です。ただし没落してしまった貴族であり、食いつなぐため四人いた女兄弟全てが商家に嫁いだそうです。

 父の家に入った母の場合、父が途中で商人から政治家に路線変更していますから、相当の苦労をしたでしょう。それなのに今でも美しく優雅で誇り高く、いかにも貴族といった風情をかもしだしています。

 ……わたくしはまだ身構えていました。

 そんなわたくしを無視するように、母はカイ様とソラさんに目を移します。
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