託宣が下りました。
「まあかわいいお客人ですこと。そちらに見えるのは英雄のカイ・ロックハート様かしら?」
「あ、の、はは、はい……」
カイ様は逃げ出しそうです。こういった存在感のある人間は苦手に違いありません。
「本当に嬉しいわ、お会いできて。ずっとお近づきになりたかったのですよ。……アルテナ、カイ様に失礼なことはしていませんね?」
「……はい、お母様」
わたくしが神妙に答えると、母は意味深に目を細めました。「まあいいわ」とこほんと小さく咳払いをし、視線をすうとカイ様の横にいるソラさんへと滑らせます――。
「……それで、そちらのかわいいお嬢様が、ソラ・フォーライク様ですね?」
「その通り!」
わたくしやラケシスが何かを言うまでもなく、ソラさんが元気よく返事をしました。抱えている藁人形を持ち上げ、
「誰が言ったか天才人形遣い! ソラ・フォーライクとは我のことだ!」
「ソソ、ソラちゃん」
カイ様が慌てていさめようとします。
ですが母は、手にしていた扇子で口元を覆うと嬉しげに笑いました。
「ほんと、噂に聞く通り元気な娘さんですわ。お会いできて嬉しい」
(……お母様、我慢してる)
母の肘がぴくぴく震えているのを、わたくしはたしかに見ました。
それもそのはず。ソラさんはなんと言っても、『あの人』の妹ですから――。
それから母はカイ様とソラさんをソファに座らせ、使用人を呼ぶと二人にお茶を出させました。
そして、
「お客人の前で恐縮ですけれど、お二人とも、少しお待ちいただけるかしら。娘たちに話があるのです」
「あ、はい……」
「親娘再会はよいものだ! ゆっくりやれ」
カイ様は縮こまったまま、ソラさんは横柄ながらも心遣いのある表情でうなずきます。
ああ、とわたくしは絶望の中で思いました。いっそお二人がわがままでも言って母を放さなければいいのに。特にソラさん、なぜそんなに物わかりがいいの。……『母親』だから?
「ありがとうございます。アルテナ、ラケシスもこちらへいらっしゃい」
そう言って、颯爽と母は隣室へ向かいます。
わたくしが大きなため息をつき、ラケシスはそんなわたくしを慰めるようにぽんぽんと肩を叩きました。
「諦めよう、姉さん」
「少しは希望のあることを言って、ラケシス……」