託宣が下りました。
たぶんラケシスはまともに騎士ヴァイスの行状を母に書き送ったはずです。それなのに、母の感想はこれなのです。
わたくしは両手で顔を覆いました。
そして、ラケシスに八つ当たりをしました。
「ラケシスの馬鹿、どうしてあの時騎士に『父と母の総意』なんて言ったの」
「だってあの場合言えっこないだろ、『母はあなたの信奉者です』なんて!」
ああ、ラケシスのあの言葉で少し期待したわたくしの馬鹿!
そう、母は以前から――託宣が下る以前から、英雄ヴァイス・フォーライクの信奉者であったらしいのです。
おかげで託宣が下った報せがサンミリオンに届いた直後から、わたくしには恐ろしい数の母からの手紙が送られてきました。早く輿入れしろとそればかり。おまけに『英雄の妻になるための五十五箇条』なるものまで送られてきて、わたくしは一時ノイローゼになりかけたのです。
ちなみに中身は『英雄には絶対服従』だとか『英雄より先に寝ない、英雄より後に起きない』だとか。語るだけでも疲れます。思想としてはこういうのもあってよいと思いますが、わたくしは絶対にごめんです。
ちなみに母が騎士を奉じるようになったきっかけは一年前の王宮凱旋パーティのときだとか。
そう言えば王女エリシャヴェーラ様もそのころ騎士を見初めていたような。いったい騎士はなにをやらかしたのでしょうか。
「お母様、さっきソラさんを抱きしめたいのを我慢していらしたでしょう?」
わたくしは苛立ちまぎれにどうでもいいことを言いました。
そうよ、と母は両手を震わせました。
「ああ、さすがヴァイス様の妹御。何て愛らしいのかしら! お前が結婚すればあの子も我が家と縁続きになるのね。いっそうちで引き取りたいわ」
「ソラさんはかわいいけどそれはどうかと、お母様」
「そうそう。家をネズミだらけにされるよ」
「ネズミとは何の話です?」
ラケシスが懇切丁寧にソラさんが馬車でネズミをぶちまけた話をすると、母は扇子でぱしりと手を叩きました。
「いいわね! しつけがいがあるわ。本当に引き取ろうかしら?」
「「やめてください」」