託宣が下りました。
「ソフィアは何と言ったか分からんが」
父は机の上で両手を組み合わせました。「納得のいかない結婚などする必要はない。託宣が本物であってもだ。それだけは覚えておきなさい」
「お父様……」
わたくしの胸に、ぐっとこみあげてくるものがありました。
ラケシスと同じ。お父様もわたくしの味方になろうとしてくれている……。
「……お父様、わたくしは結婚しません。修道院に戻りたいのです」
「修道長は何と仰っているのだね?」
「星の巫女には戻れませんが、修道女としてなら可能だと。周りは、うるさいでしょうが……」
「この町で暮らしたほうが楽だろう?」
「………」
たしかにそうでしょう。この町でも託宣の騒ぎは知られているでしょうが、王都ほどの影響はないはずです。
何より父の威光が、人々の白い目を幾分か和らげてくれる……。
「お前が決めたことならば私は何も言わんよ。ただ、お前が傷つき続けるような環境は許さん。そのときは無理にでもこの家に連れ戻そうと思う」
父は優しく言いました。
わたくしは小さく何度もうなずきました。
うつむいてしまい、父の顔が見られません。こんなに温かく迎えてくれるというのに。
父の安心できる環境を選べない自分が、つらくて。
それから父はわたくしに怪我の状況を聞きました。おおむね良好ですが、父はこの後医者を呼んでくれるようです。
「動けないままだと退屈だろう。やりたいことはあるかね」
そう問われ――。
わたくしは即答しました。準備していた答を。
「魔物について勉強したいのです、お父様」
父は目を丸くしました。「魔物?」
*
魔物について学ぶ――。
それは先日、シェーラのお父様であるブルックリン伯爵の騒動に遭って以来、ひそかに思い続けてきたことです。
と言ってもあの騒動の直後はわたくしも取りまぎれていて、自分で学ぶ気力はありませんでした。
今、こうしてサンミリオンで一息つけることになり、いい機会だと思ったのです。サンミリオンには図書館がありますので独学でもよいのですが、できるなら人について腰を据えて学びたい、と。
――居間に戻ってそんな話をすると、「それならいい人を紹介しますよ」とカイ様が言いました。
「僕の友人に学者がいるんです。魔物学の新進気鋭です」
わたくしはひそかに感動しました。人間恐怖症のカイ様に『お友達』がいる……!