託宣が下りました。

「……あの、お姉さん?」
「あ、ごめんなさい。その方は今は王都に?」
「いえ、実はサンミリオンにいると聞いていて」
「ずいぶん都合がいいな」

 紅茶を飲みながらソラさんが言います。口調はぞんざいですが機嫌がよさそうです。……たぶんあの後、うちの母に溺愛されたのでしょう。

 ちなみに母はすでにこの場におりません。この後友人とお茶をする予定だそうです。

「それはサンミリオンに洞窟(ダンジョン)が発生したからですか」

 ラケシスが真剣な顔でカイ様を見つめます。
 なるほど、魔物学の学者さんが今この時期にサンミリオンにいるのは何もおかしくないわけです。

「そうですね。今回の魔物はかなり特殊だと言われていて――。アレスも討伐に出るという話をしていましたよ」
「アレス様が……」
「はい。もちろん僕らもついていきます。絶対とは言いませんが、討伐できるよう努力はします」
「カイ、情けないぞ。そういうときはこう言うんだ――『必ず倒す』!」

 ソラさんが立ち上がり拳を突き上げました。カイ様が苦笑してそれを見上げています。

『必ず倒す』

 わたくしは騎士の言葉を思い返しました。
 あの自信にあふれた声。根拠などないはずなのに、こちらも信じずにいられなくなる強さ。

 その結果負けたらちょっとお馬鹿さんかなと思いますが、たぶん――負けない気がする。
 そんな安心感さえ、今のわたくしにはあるのです。

(何を言っているの。魔物の討伐に百パーセントなんてないのに)

 量産型の魔物もいるそうですが、洞窟(ダンジョン)を生み出すほどの魔物はいつだって唯一無二。

 過去に何匹魔物を倒した勇者であっても、“その”魔物と出会うのは初めてなのです。

 そして『初めての対処』に百パーセントはありえないのですから。カイ様のように慎重になるのが当然でしょう。

『信じろ』

(信じたい、でも)

「お姉さん、いつから勉強を始めますか?……お姉さん?」
「え? あ……ええと、すぐにでもお願いしたいです」

 わたくしは慌ててそう答えました。
 いけない、また一人で考えすぎています。

 カイ様の前髪の奥の目がちらりと気遣わしげにわたくしを見たのが分かりました。心配させてばかりで、本当に情けない。

 わたくしは顔を上げました。そして、口を開きました。
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