託宣が下りました。

「魔物のことを学んで、できることを模索したいのです。ただ逃げるにも知識がいる。そう思ったので――」

 ブルックリン伯爵が豹変したとき、わたくしは悲鳴を上げてしゃがみこむしかできなかった。そんな自分が嫌で、どうにか変えたいと思ったのです。

 倒す、ことはできない力なき人間にも、できることを探したい。

 カイ様の口元が微笑みました。少しはこの心を分かってもらえたのでしょうか。

「立派だよ、姉さん」

 ラケシスがわたくしの背中を撫でます。何だかくすぐったいです。

 カイ様がソファに座り直し、声を弾ませました。

「それなら今ご紹介したい人はうってつけです。元ハンターなので」
「そうなのですか?」
「ただ、お金は払ってやってくださると……。なにぶん若くて研究費用がなかなか調達できないらしくて」
「若い……? おいくつでしょう?」
「二十五ですね」

 それは学者として一人でやっていくにはたしかに若すぎます。普通なら名のある学者についているべき年齢です。

 わたくしはおそるおそる、一番気になっていることを尋ねました。

「あの……男性、ですね?」
「そうです」

 やっぱり。予想していたのに、つい肩を落としてしまいました。

 できれば女性が良かった。修道院ではどんな分野を学ぶにも教師は女性でしたから、とても気が楽だったのです。

 とは言え『魔物学』で女性を望むのも難しい話でしょうから――。覚悟を決めなくては。

 カイ様は苦笑いをしました。

「変わり者なんですよね。一人で好きなようにしたいと言って……あ! でも人当たりはいいですよ!」

 慌てて擁護しますが、わたくしは嫌な予感を覚えました。カイ様のご紹介とは言っても、今の言葉は不安すぎます。

 ()()()()()()()()()なんて、騎士ひとりで十分!



 わたくしが帰宅したその日、町の人々から『お嬢様帰還祝い』という名の贈り物がたくさん届けられました。

 父はそれを全部お断りしたのですが――ある種の賄賂につながりますので――わたくしは話を聞いて、涙が出そうになりました。

 彼らはあくまで『町長の娘』だから厚遇してくれている。分かっていても、嬉しい。
 王都での、修道院での冷たい思いがぬぐい去られていくようで。
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