託宣が下りました。
「魔物のことを学んで、できることを模索したいのです。ただ逃げるにも知識がいる。そう思ったので――」
ブルックリン伯爵が豹変したとき、わたくしは悲鳴を上げてしゃがみこむしかできなかった。そんな自分が嫌で、どうにか変えたいと思ったのです。
倒す、ことはできない力なき人間にも、できることを探したい。
カイ様の口元が微笑みました。少しはこの心を分かってもらえたのでしょうか。
「立派だよ、姉さん」
ラケシスがわたくしの背中を撫でます。何だかくすぐったいです。
カイ様がソファに座り直し、声を弾ませました。
「それなら今ご紹介したい人はうってつけです。元ハンターなので」
「そうなのですか?」
「ただ、お金は払ってやってくださると……。なにぶん若くて研究費用がなかなか調達できないらしくて」
「若い……? おいくつでしょう?」
「二十五ですね」
それは学者として一人でやっていくにはたしかに若すぎます。普通なら名のある学者についているべき年齢です。
わたくしはおそるおそる、一番気になっていることを尋ねました。
「あの……男性、ですね?」
「そうです」
やっぱり。予想していたのに、つい肩を落としてしまいました。
できれば女性が良かった。修道院ではどんな分野を学ぶにも教師は女性でしたから、とても気が楽だったのです。
とは言え『魔物学』で女性を望むのも難しい話でしょうから――。覚悟を決めなくては。
カイ様は苦笑いをしました。
「変わり者なんですよね。一人で好きなようにしたいと言って……あ! でも人当たりはいいですよ!」
慌てて擁護しますが、わたくしは嫌な予感を覚えました。カイ様のご紹介とは言っても、今の言葉は不安すぎます。
一人勝手な変わり者なんて、騎士ひとりで十分!
*
わたくしが帰宅したその日、町の人々から『お嬢様帰還祝い』という名の贈り物がたくさん届けられました。
父はそれを全部お断りしたのですが――ある種の賄賂につながりますので――わたくしは話を聞いて、涙が出そうになりました。
彼らはあくまで『町長の娘』だから厚遇してくれている。分かっていても、嬉しい。
王都での、修道院での冷たい思いがぬぐい去られていくようで。