託宣が下りました。

 客室のひとつに用意したテーブルと、椅子二脚。

 お互い椅子に腰かけると、ヨーハン様はガサゴソと手荷物の中から書類を取り出しました。不器用なのでしょうか、書類が折れたりしています。やっぱり見ていて心配になる人です。

「あの、わたくし、魔物について本当に何も知らなくて……」
「そりゃそうですよぅ、世間一般には魔物の情報なんざ流れちゃいません~。だって魔物の正体なんて、僕たち学者でさえ分かってないんです」

 わたくしは目を丸くしました。



 存在自体は大昔からあったと言われる、魔物――。
 それは一般の動物のように当たり前に、あらゆる国あらゆる時代にいた、と言われているようです。

 ただし数自体は一般の動物よりも圧倒的に少なく、専門家が知っていれば十分対処できる程度だったそう。

 姿形は動物に限りなく似ているものもいれば、魔物特有の形をしているものもあります。倒せば骨ひとつ残さず塵となって消えるため、修道院では魔物を生物として認めていません。もし生物として認めていたなら、今ごろ修道院はハンターギルドと犬猿の仲だったでしょう。

 このエバーストーン国においては、十一年前に数が激増し――。
 それは魔王が原因とされました。

 魔王とは、魔物の中でも限りなく人に近い存在だったそうです。なんでも……
 人間の体を乗っ取ることで、それを可能としたのだとか。



「つまり『魔王』は『憑依型』の魔物なんですよ~」
「『憑依型』?」

 ヨーハン様はわたくしの手元に、一枚の紙を差し出しました。

 絵が描かれています。何だか妙な形の……魂、のような存在が、人間に乗り移ろうとしている絵です。

「まあ、魔王の元の姿はだーれも知らないんですけどねえ~。とにかく一人の人間を操って、魔王として君臨したわけですねえ」

 ヨーハン様の語り口調はのほほんとしています。重要なことを話しているのに緊張感がありません。

 もっとも、おかげでわたくしも肩の力が抜けています。わたくしのような考えすぎの人間には、これくらいの気楽さがちょうどいいのかもしれません。

「魔物は他の魔物を生み出し……操り、エバーストーンを攻めました~」
「なぜエバーストーンだったのですか?」
「それはですねぇ」

 わたくしは唾を飲み込みました。とても知りたかったことのひとつです。
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