託宣が下りました。

「よく分かっていないんですよねぇ~。魔王は公言してくれなかったんですよぅ。言ってくれれば僕ら楽だったのに」

 そんなこと言っても。
 ヨーハン様はどうやらそのことに本気で憤っているようです。

「おかげで推論を立てるのにさえ苦労したんですよ~。魔王軍の動きをつぶさに観察して目的を見極める……大変ですようほんと」
「そ、そうですよね……」

 今度は愚痴になってしまいました。呆れるわたくしの前で、「でも」ヨーハン様はぐっと拳を握りました。

「それらしき理由は見つかりました。エバーストーンの土壌に、魔物の好む石が豊富に含まれているらしい、ということです。石が多いでしょう、うちの国」

 その話なら、わたくしもちらっと聞いたことがあります。やっぱりそれが一番の説なのですね。

「その石が魔物の力を増幅させてしまう……のですよね?」
「そう言われていますが、単純に魔物にとっておいしい餌なのかもですねぇ。石が」

 とにかく狙っている石があったんですよ、と彼。

「こう、魔物が石をがりがり食ってる姿なんて、想像するとやっぱり魔物っていいなあって思いますよ~。歯が欠けないなんてうらやましい」
「………」

 何言ってるんですかこの人。

 わたくしの視線を気にした様子もなく、ヨーハン様は言います。

「僕はですねえ~、魔物が嫌いなんですよ~。それでハンターになったり学者になったりしたんですが……ずっと調べていますとねぇ、やつらの異常さに愛着も湧いてきたりしましてー」
「愛着……ですか」
「ずっと飼ってるペットみたいなものですねぇ」

 その表現はおかしいのでは。

 わたくしはブルックリン伯爵の変貌ぶりを思い出し、ぶるりと身震いしました。あれも、魔王と同じ憑依型なのでしょうか。

「あの、以前友人のお父上が魔物に取り憑かれて……そのときに、魔物は欲求が強いと聞いたのですけれど」
「ああ、聞いていますよー。ブルックリン伯爵ですねぇ~……ええと」

 彼は手元の帳面をめくり、「あったあった」と嬉しそうに目を細めました。

「ヴァイス様からうかがっています。爪がびょーんと伸びたそうですねぇ」
「………」

 びょーん……。

「魔物は自分の得意な部位に憑依することが多いんですよ~。そこから意識まで操るんですが……そいつは爪だったわけですね。びょーん」

 子どものように言って楽しげです。楽しまれても困るのですが。
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