託宣が下りました。
「魔物は欲求が強いというより、人間のように理性がありませんから~。欲望に忠実になるんですよぅ。食べたい、寝たい、殺したい」
「!」
突然飛び出した恐ろしい単語。わたくしはびくっと体を跳ねさせました。
ヨーハン様は何も気づかなかったかのように、さらに続けました。まるで歌うように。
「さらに人間に取り憑くことで初めて知る『金銭欲』『所有欲』などが著しく跳ね上がるという研究結果がありまして~。ま、人間らしい欲というやつですね。『思い』と言い換えてもいい」
「思い……」
例えばブルックリン伯爵が『シェーラを取り戻したい』と願ったように。
けれど理性があるから、伯爵も実行には移さずにいた。それが……魔物に取り憑かれてしまったために爆発した――。
あるいは、伯爵の思いが魔物を呼び寄せてしまったのでしょうか?
「ま~難しいところですね。ちなみに迷いのある人間には魔物が近づきやすい傾向があるという研究結果はありますよ~」
「………!」
どきりと胸が打ちました。迷いのある人間には……。
(ではわたくしは、魔物を寄せやすいの?)
ヨーハン様は続けて言います。
「魔物が苦手なものとして、一直線な人間があります。あと生命力。活力。死とは対局に位置する人間。迷いなどかけらもなく、憑依型でもつけいる隙がない。気持ちの強い人間」
え、それって……。
わたくしが顔を思わず顔を上げると、ヨーハン様はご自分の帳面を眺めながら、何でもないことのように言いました。
「例えばヴァイス様なんかは魔物討伐には適任ですねぇ。アレス様はあれで迷いの多いかたなので、むしろ魔物を寄せてしまう体質でしたし~。アレス様が寄せてヴァイス様たちが始末する。そんな感じだったようですよぅ」
「そ、そうなんですか……」
それは意外でした。
でもアレス様はたしかにお優しいから、迷いもあったのでしょう。それがどんな種類の迷いかは、さすがにわたくしの知るところではありませんが。
反対に……騎士には迷いがあるのでしょうか? どんなことでも即断即決、面識のないわたくしに求婚することさえ迷わないような人です。
わたくしは少しだけ苦い思いを噛み締めました。
――迷いのない人というのも、少し、苦手かもしれません。
こちらの言葉を聞いてくれる気がしないのです。……まあ、騎士だけかもしれませんが。