託宣が下りました。
「アルテナ様」
「あ……は、はい?」
また一人で考えこんでしまいました。わたくしは慌ててヨーハン様に向き直りました。
ヨーハン様は、テーブルの上で身を乗り出しました。広げていた書類をぐしゃぐしゃにしながら、わたくしをじっと見つめます。
「アルテナ様は、たしか魔物に対してできることを知りたい、とのことでしたね~?」
「は、はい」
「でしたらアドバイスはひとつです。魔物の前では気を強く持つこと。絶望しないこと」
急に、口調から間延びが消えました。
わたくしははっと彼の瞳を受け止めました。眠たげだった目が、完全に覚醒してわたくしを見ていました。
空が夕刻から夜へと変わる間の、紺碧がそこにありました。
「これからの授業で魔物の種類やそれぞれの弱点、強みをお教えします。でも実際はおおむねこれだけで終わるんです。どの魔物も絶望を好む。どの魔物も生きると決めた人間には弱い。その気力を削ぐためにやつらは知恵を絞るのです」
「それは――」
わたくしは唾を飲み込みました。
「……それは、ハンターだったころの経験から得た答えですか?」
「ご存じなんですか。ええ、大体そんな感じです」
そう言って、ヨーハン様は「たはは」と頭に手をやりました。
「と言っても僕は弱っちくていつも死にかけてまして~、あんまりに迷惑かけるのでいつからか討伐に出るのを諦めたんですよぅ」
「弱い……? 本当に?」
「そりゃあ弱いですよ。魔物を斬るのが嫌になったんですから」
のほほんとした返事。たいした意味などないですよと言いたげに。
わたくしは何も言えず、ただ彼を見つめました。
何だか……この人には私が苦手とする男性の雰囲気を感じません。全体的に頼りない雰囲気のせいでしょうか?
それに――そう。この人に感じるものは彼を包んでいるゆっくりとした空気。
騎士のように慌ただしくない。振り回さない。わたくしはふいにそう思いました。
なぜ騎士と彼を比べるようなことを思ったのか、やっぱりまったく分からなかったのですが――。
(この人のことを知りたい)
わたくしは強くそう思いました。
そして、これから続く授業への楽しみが増したと感じたのです。