託宣が下りました。

 父から聞いていました。今月に入ってから、魔物に遭遇したことによる怪我人が増えていると。

 そしてつい昨日、我が家の隣人が出先で魔物に襲われ、重傷を負って帰ってきました。

「このままにしておけん」

 父はすでに手配を始めていました。ありったけの費用でハンターを雇ったのです。

 それ以外にも自主的にこの町へ来てくれたハンターもおりました。ラケシスなどはその部類でしょうか。

 ラケシスはすでにパーティを組み、洞窟(ダンジョン)攻略に向かっているはずです。

 目的の魔物――洞窟(ダンジョン)を産み、大量の魔物を増産している存在は、洞窟(ダンジョン)の奥深くにいる――。



「外出してはなりませんよ、アルテナ」
「お母様……」

 こっそり外へ出ようとしていたわたくしを、どこからか現れた母は厳しい目で叱りつけました。

「今この時期にお前が怪我をしたらどんなことになると思っているのです。自覚なさい」
「……はい」

 その通りです。わたくしはしゅんとしてうつむきます。

(町の様子を見たかったのだけれど……)

 毎日窓から眺めるだけでは満足できなかったのです。でも、母の言う通り今は外に出るべきではありません。

「退屈ならヨーハン殿に本でも持ってきていただきなさい」

 母はわたくしの手首に触れて、さとすように「今しばらくのしんぼうですよ」と言いました。

「ヴァイス様方が洞窟(ダンジョン)に入られた。魔物の命も風前の灯火でしょう。わたくしたちは待てばいいのです」
「お母様」

 ――待てばいい? 本当に?

 いえ、やっぱり母の言う通り。力のないわたくしたちは待つしかない。

 力ある人たちが倒してきてくれるのを、待つしかない。

 そこまで思って、少しふさいだ気分になりました。
 ――何もできない、そんな状況が嫌でヨーハン様に学んでいるはずなのに……。



 部屋に戻り一人きりになると、何だか落ち着かなくなりました。

 椅子に座っている気分にもなれず、わたくしはうろうろと歩き回りました。

 何とはなしに手首をさすります。母が触れた手首を。

 ――昔、誰かに強く手首を引かれたような気がします。

 そんなことをふと思い出し、わたくしは驚きました。なぜ、そんなささいなことをこんなときに?

 けれど一度引っかかると、ついそのことばかり考えてしまいます。

 誰かに手を引かれて歩いていた?
 いいえ、『強く引っ張られた』のです。
< 149 / 485 >

この作品をシェア

pagetop