託宣が下りました。

 考えると手首にその誰かの手の強さがよみがえるような気がして、わたくしは思わず身震いをしました。

 恐い――と、思いました。

(なぜ?)

 考えてみればわたくしは『力ある人』が恐いというよりも、『力ずくで何かをされること』が恐いのかもしれません。手首の違和感をたしかめて、忘れていた何かの形がじわじわと浮き上がってくる気がします。

 そうされることに怯えて男性に近づくのが恐くなるほど、わたくしは過去に何かあったのでしょうか?

 もちろん、男性に襲われた記憶などまったくないのです。せいぜい騎士に無体を働かれた託宣の日ぐらいなものです!

 何もないけれど、理由もなく恐いのだと。

 ……今までずっと、そう思っていたのに。

(手首を強く引かれた……誰に?)

 無性に気になりました。わたくしは、記憶の糸をたぐりよせようとしました。
 と――。

「失礼します~。アルテナ様ぁ」
「ヨーハン様?」

 ドアの向こうからヨーハン様の声。

 我に返ったわたくしは急いでドアを開けに向かいました。今日は講義はない日のはず。いったいどうしたのでしょう?

「おはようございます~。突然お邪魔してすみません~」

 ヨーハン様は今日も眠たそうな顔でへらっと笑いました。

 腕には大きな荷物を抱えています。あまり力のない彼には重そうです。

「いえ……いったいどうなさったのですか?」
「実は明日からの講義を少しお休みさせていただきたくて~」
「え?」
「調べたいことができちゃいまして」

 頭に手をやりながら、申し訳なさそうにへこへこ頭を下げます。

「それは構いませんけれど……何を調べに行かれるのですか? あ、どうぞ中へ……」

 わたくしはヨーハン様を部屋の中へお誘いしました。

 ヨーハン様は辞退なさいました。「結構です~」と、にこにこしながらきっぱりと。

「ここはアルテナ様のお部屋ですよ~。若い女性のお部屋に入るわけにはいきません~」
「………」

 わたくしは感動しました。修道院にいたころ、夜に何度も部屋に侵入しようとした騎士のことを思い出します。

 そりゃああの人はわたくしに子を産ませたかったのですから、あの行動も当然と言えば当然ですけれど……って、何を考えているのでしょうかわたくしは!

「で、何を調べにいくのか、でしたねぇ。ええと」
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