託宣が下りました。

 ヨーハン様はなぜか沈黙しました。そして、

「――アルテナ様」

 ふいに、彼はわたくしの手を取りました。

 わたくしはぴくりと震えて――けれどそのまま、彼に手を握られるままにしました。

「アルテナ様。僕ら、たぶん似ていますね。だからこんなに居心地がいい」

()()()()――)

 気がつけば夜空の瞳がわたくしを優しく見つめています。

 握られた手が温かい。包むような手です。それでいて――力がこもっていない。

 安心できる手。

 わたくしはヨーハン様を見つめました。
 ヨーハン様は、目を伏せました。

「……ちょっと卑怯ですよねえ、これは」
「え?」
「はは、いえ。何でもありませんよ~。そんなわけで、調査が終われば講義は再開したいので~。どうぞよろしくお願いします~」

 そのままもう一度頭を下げ、彼は帰ろうと半身を傾け――。

 最後に、こう言いました。

「アルテナ様、忘れないでくださいね~。洞窟(ダンジョン)の魔物、本当に手強そうなんです。ヴァイス様たち、命をかけて戦ってくれてるんですよー」

「―――」

 わたくしは言葉を失いました。
 胸を、痛打された心地でした。

 ああ――また大切なことが頭から抜け落ちていたのです……自分は。


(……騎士は、アレス様たちは、無事?)


 ラケシスは、カイ様は……次々と彼らの顔が浮かんできます。夜空の星のように脳裏に焼き付いて、離れなくなります。

 ヨーハン様が帰っていき、わたくしはドアを閉めました。

 しんと静まりかえる部屋の中央で、ぎゅっと目を閉じ――。


『魔物は一直線な人間を嫌います』


 不思議なことですが今この瞬間も、鮮明に思い描くことができるのです。騎士が約束を果たし、意気揚々とわたくしの元へ現れる姿を。

 その身を案じる一方で、無事を信じてもいる。何ともおかしな感じです。ひょっとしたら悪く考えたくないだけなのでしょうか。それともわたくしは意外と楽観的だったのでしょうか?

 いえ――違います。

 わたくしは無根拠に信じているだけ。

 『信じろ』と言った彼を、真正直に信じただけ。

 騎士よ、だから。
< 152 / 485 >

この作品をシェア

pagetop