託宣が下りました。
お父様が魔物に襲われた――。
全身から血の気が引きました。くらりと目まいがし、何だか世界が少し暗くなったようです。
「今、巫女のお母さんのところに人が来てたんだ。嘘とかじゃないぞ」
ソラさんは真剣な顔で言い足しました。どうやら……わたくしを驚かせるためのいたずらではなさそうです。
「け、怪我の具合は?」
問うと、ソラさんは重々しい声で、
「よく分からないらしい」
と答えました。「とにかく……大けがだ、って」
「―――」
話を聞けば、町の公舎を出たところを襲われたとのこと。出血がひどいのであまり動かせず、たまたま近くに町議会の人間の家があったので、そちらに運んで治療を行っているそうです。
今、この町にはハンターがたくさんいます。その中には治療師もたくさんいるのですが……残念ながらほとんどが出払っているようで、父の怪我のために集まれたのは三人。
その三人が必死の治癒にあたってくれているのです。
「お父様――」
わたくしは手を震わせました。
今すぐにでも飛んでいきたい。でも、今外出するのは――。
「外へ出てはなりませんよ」
唐突に母の声がしました。
はっと振り向くと、母は相変わらず優雅に扇子で口元を隠しながら、こちらへ歩いてくるところでした。
「今、町は厳戒態勢です。下手に出ることはまかりなりません」
「お母様」
心の奥底がきりりと痛みました。
母の言うことが正しいのは分かっています。でも、でも――!
「――どうしてそんなに冷静でいられるんですか……!?」
わたくしは声を張りました。
正論を守りたくない瞬間ぐらいある。こうしている間にも、父は苦しんでいるのに!
母はパチンと扇子を閉じ、ふうとため息をつきました。
「お父様が、駆けつけてもらいたがっているとでも?」
「―――」
「もし本気でそう思うなら――お前は愚かですよ、アルテナ」
母はわたくしをじっと見つめました。わたくしと同じ色の瞳でした。
そしてそれを最後に、ふいと背中を向けてどこかへ行ってしまいました。
「……お母様」
わたくしはがくりとその場に両膝をつきました。
足が震えます。両手で顔を覆い、ため息を殺し、必死に呼吸をします。