託宣が下りました。

 わたくしは急いで駆け寄りました。

 倒れていたのは、老年の男性でした。肩を叩くと反応があります。怪我もしていなさそうです。

「って、うわあただの酒飲み!」

 ソラさんが悲鳴を上げて離れていきました。

 たしかにすごいお酒の臭いです。きっと酒場でお昼から飲んでいたのでしょう。わたくしは声をかけ、ご老人を助け起こしました。

 老人とは言いますが、なかなか立派な体つきをしています。現役で働いている人に違いありません。今日はお休みの日だったのでしょうか――。

 すまんすまんとご老人はにこやかに言いました。

「ついうっかり飲み過ぎてのう」

 お酒臭いですがいい人です。わたくしは微笑して返しました。

「お薬はいりますか?」
「おお……少しもらおうかな」

 薬なら今山ほどあります。わたくしは袋の中から役に立ちそうなものを渡しました。

「ありがとう。優しいお嬢さんじゃ」
「そうだろう。巫女は優しいんだ」

 ソラさんが離れたところからわざわざ声を張りました。そこまでして言うことじゃないと思うんですが。
 妹さんかねとご老人は訊きました。

「未来の妹だ!」
「違います」

 ソラさんの即答をこちらも即座に否定。これだけは譲れません。

「ほうほう。何だか面白いの」

 ご老人はわたくしの肩を借りて立ち上がり、愉快そうに笑いました。

「のうお嬢さん、こんなジジイからだが、ひとつ忠告しておくぞ」
「まだお若いですよ。何でしょう?」
「あまり簡単に人を信用してはいかんよ」
「―――?」

 ご老人はわたくしから手を放しました。そして、ふらふらした足取りでどこかへ行ってしまいました。

「何だ、変なじいちゃんだな。――うわっ!」

 戻ってきたソラさんが、わたくしに近づくなり即座に飛び退きました。「巫女、お酒臭いっ!」

「え、あ、ほんと……」

 どうやらご老人のものが移ってしまったようです。
 困りました、このままで父の元へ行ってもよいものか――。

「ふ、服を着替えたほうがいいんじゃないか?」
「――いえ。きっと説明したら分かってもらえます」

 着替えに戻る時間が惜しい。一刻も早く父の元へ行きたい。せっかく魔物に遭遇せずにここまで来たのです、きっとこれは神のお導き――。
< 158 / 485 >

この作品をシェア

pagetop