託宣が下りました。
「こっちです、アルテナ様……!」
突然、前方から声がしました。
ソラさんがはっと足を止めました。その拍子に、引っ張られていたわたくしはずでんと転びました。
「痛っ……」
「あ。巫女すまん」
「あああアルテナ様! 大丈夫ですかぁ」
駆けてくる足音。そして、突っ伏しているわたくしの視界の端に、誰かがひざまずくのが見えました。
「起きられますか?」
差し出された手に見覚えがあります。
わたくしはそろそろと顔を上げ――そして目を見張りました。
「よ、ヨーハン様……? どうしてここに」
「詳しい話は後です。さあ、立ってください~」
ヨーハン様は腰に剣を下げていました。なんだかそれだけで別人のようです。
わたくしはためらいながらも彼の手を借り立ち上がりました。
するとヨーハン様はそのままわたくしの手を握り、思い切り走り出しました。
「ソラさんついてきてくださいね~!」
「ば、バカ! いきなりすぎる!」
それでもソラさんは何とかついてきます。元が活発な彼女は足も速いようです。
というより、
「ヨーハンお前足が遅いっ」
「あはは~、僕運動音痴なんですよ~」
「あはは~じゃないっ! 巫女といいヨーハンといい勉強好きはこれだから……!」
ソラさん、それは言いがかりというものです。世の勉強好きに謝ってください。
ちなみにソラさんはヨーハン様と仲良しです。マイペースな人同士、気が合うのでしょうか?
それはともかく――わたくしは焦りました。
何が何だか分からないまま、父のいるはずの家が遠ざかっていきます。
「ま、待って! 待ってください二人とも……!」
「何ですかアルテナ様! 今は止まっている場合じゃありませんよ~!」
「だって魔物なんでしょう!? ほ、他の人たちに報せなければ……!」
わたくしたちさえ無事に逃げ延びればいいわけではないのです。魔物が発生したなら報告しなければ。
ましてさっきの家は怪我人の父がいるはずなのです。万が一魔物があの家を襲撃でもしたら……!
「あなたが問題なんですよ、アルテナ様」
角を曲がるついでにスピードを落とし、ヨーハン様は振り返りました。
「え……?」
「その臭い。どこでつけられました?」
わたくしは顔が熱くなるのを感じました。このお酒臭さをヨーハン様に知られたことが、妙に気恥ずかしかったのです。