託宣が下りました。

「酒の臭いならさっきヘンなじいちゃんを助けたときについたんだ」

 ソラさんが斜め後ろから説明してくれます。するとヨーハン様はいつも気楽そうな顔を歪め、

「お酒の臭いじゃありません。それは〝匂い袋〟の臭いです」
「匂い袋……?」
「魔物を寄せる臭いですよ。アルテナ様、あなたはターゲットにされたんだ」

 一瞬、言われた意味が分かりませんでした。

 ぽかんとするわたくしを、ヨーハン様は再び引っ張ろうとします。

 手首が痛い。意外なほど強く掴まれたその感触が、わたくしの中の何かを揺さぶりました。奥底からこみ上げてくる――何とも言いがたい不安の塊を。

「ひ――引っ張らないで、ください……っ!」

 わたくしはとっさにヨーハン様の手を振り払おうとしました。
 けれど、外れません。彼の手はがっしりとわたくしの手首を掴んだまま。

 彼の紺碧の瞳が、叱るように強くわたくしを見つめていました。

「放してもいいですが、ちゃんとついてきてくれますか?」
「でも、魔物のことを人に報せなければ!」

 本当は今来た道を戻りたかった。町にはたくさんの自警団とハンターがいるのです。魔物が発生したなら彼らに伝えるべきです。

「今言ったでしょう、狙われているのはあなたですよ。匂い袋の効果は劇的です。魔物は当面、あなたしか狙いません。その状態で町中に出ると?」
「………っ」
「逆に言えば人のいないところにあなたを連れて行けば、魔物もついてきます。それなら他の人も安全でしょう」
「………」
「さあ、行きますよ~」

 再び走り出すヨーハン様。

 彼は元々足が遅いようですが、それ以上にわたくしが走りやすいように速度を調整してくれています。そこは配慮してくれるのに、手首を掴んだ指の強さだけが変わりません。

 まるで逃がすまいとするかのように。

「放して……」

 かすれた声は、彼の耳に届かなかったようでした。
 ――それとも、無視されたのでしょうか。

 ふいに、彼の背中に記憶の中の誰かの背中が重なりました。ヨーハン様よりずっと小さく、ずっと細い……けれど(かたく)なな態度がそっくりな。

 誰だったろう。目をこらして見ても、ぼやけてしまってよく分かりません。

 ただ――強くわたくしを叱る声だけが、鮮明に聞こえてくるのです。

『駄目だよ、ここから離れるんだ!!』

(この声……()()()()?)
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