託宣が下りました。

 ヨーハン様はわたくしとソラさんを導いて、裏道を駆けました。

 やがて人の気配がまったくない区画に足を踏み入れたとき、辺りはすっかり夜のとばりに包まれていました。

 今夜は星のない夜です。振り返ると、自警団たちの持つ灯りが町のあちこちを明るくしています。

 しかし……一方でここには、人っ子ひとりいません。

 たしか元は居住区のはずです。わたくしが小さかったころの話ですが、もっと住みよい土地を探した結果人々が徐々に移動し、最終的に無人になってしまった街区です。再開発する前に魔王が誕生してそれどころではなくなってしまい、今ではすっかり放置されていますが。

 足を止めたヨーハン様は、ようやくわたくしの手を放してくれました。
 少し遅れてたどりついたソラさんに何かを渡し、

「ソラさん、これ魔法石なんだけど。これ使って灯りつけられる~?」
「お安い御用だ」

 ヨーハン様が渡したのは、ほの青く発光するふしぎな石です。

 ソラさんはそれをてのひらに包み、むにゃむにゃとよくわからない言語をつぶやきました。

 きっと呪文だったのでしょう、魔法石はほのかに明るく光ったと思うと――またたく間に一帯を照らす光となりました。

 奇妙に感動的な現象でした。空を見上げれば夜闇が広がっているのに、視線を下ろせば真昼のように明るいのです。

 ヨーハン様はソラさんの頭を撫でました。そして、

「よし、後は魔物を待つだけです~」
「ま、魔物を待つって」

 その刹那。

 首の後ろの産毛が、逆立つようにぴりりと何かに反応しました。

 背後から――何かがやってきます。
 ずるり、ずるりと引きずるような音とともに。

「うーんあいつのろいはずですけどねえ。追いついてくるの早かったですね」
「お前の足が遅いからだこの亀足ヨーハン!」
「あ。亀って実はそこそこ足早いんだよソラさん~」
「ふ、二人とも。呑気に話してないで……」

 ずるり、ずるり。音が近くなってきました。
 わたくしは――おそるおそる振り返りました。

 ずるり。

「………っ」

 足が自然と後ずさり、やがて背中が、どんと壁にぶつかります。

 ずるり。

 音が止まりました。目の前で。
 わたくしはその異形のモノから目をそらすことができませんでした。

 影が――わたくしたち三人の上に落ちます。
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