託宣が下りました。

 やがてソラさんの体は、どさりと地面に倒れ伏しました。

「ソラさん……!」

 駆け寄ろうとして、わたくしははっとヨーハン様を見ました。
 ヨーハン様は片手をふりふりと揺らしました。僕は大丈夫、と。

「………っ」

 思い切ってソラさんのほうへと向かおうとしたのに、混乱と恐怖で足がうまく動きません。ああ、お願いだから動いて! ソラさんのところへ行かせて!

「ソラ、ソラさん……!」

 彼女が倒れた拍子に、かついでいた袋が落ち、ひもが解けていました。

 中から大量のネズミが現れ、まるで主を案じるようにソラさんの周りに群がります。チー、チーと鳴く声が切実です。このときばかりは魔力ネズミたちもごくふつうの小動物なのです。

「ソラ……!」

 ソラさんさんは動きません。

「ソラさん……!」

 いえ、よく見ると――手の指だけが動いています。地面に何かを、書こうとしているかのように。

(何かを伝えようとしている……?)

 わたくしはその指の動きに目をこらしました。
 けれど、それは文字とは思えない動きをしていました。
 何も読み取れない――。


 うぁ、とくぐもったうめき声が背後から聞こえて、わたくしは振り向きました。

 ヨーハン様が今まさにスライムに殴り飛ばされ、近くの壁に激突した瞬間でした。

「……ぁ……」

 喉が引きつります。スライムが、伸び上がった体をぐりんとわたくしに向けます。

 ずるり。

 その巨体が、移動を始めました。わたくしに――向かって。

「ひ……」

 わたくしはしゃがみこんだままでした。何とかソラさんだけはかばおうとしますが、うまく体が動いてくれません。

 そもそも――わたくしがかばったところで、この巨大な魔物を前に何の意味があるのでしょう?

(いいえ! それでもこれだけは!)

 ソラさんを守りたい。そう思うと、ようやく力が少し戻ってきました。わたくしは何とか体をずらし、ソラさんの体が自分の体に隠れるようにしました。

 ずるり。

 巨体が、いっそう近くまで迫ってきます。影がわたくしの上に落ち――魔術でもたらされた昼の光は、その一部分をあっさりと奪われてしまいました。

 ああ、どうしよう。わたくしにできることなんて何もない――。

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