託宣が下りました。

「ア……ルテナ、様……」

 がれきからヨーハン様が立ち上がろうとしているのが見えました。
 その姿で――わたくしは思い出しました。

 彼に学んだ全てを。

(魔物が苦手なもの。()()()()()

 震える手で両手を組み合わせます。こうすると、少しは落ち着くような気がして。

 目はそらさない。スライムをにらみつけ、思いっきり気迫を込めました。

 ――()()()()()()()()()と。

 そのとき、本当にふしぎなことですが……

 たった一人だけ、わたくしの脳裏に思い浮かんでいた人がいたのです。

(騎士ヴァイス……)

『守るものがあれば人は強くなる』

 彼はそう言った。そのためにわたくしが欲しいと。

 けれどわたくしはそうは思わない。わたくしなどいなくとも、彼はやはり強いままに違いないのです。

(――あなたほど生きる活力に満ちた人を、わたくしは知らない)

 彼はわたくしにとって『強さ』の象徴です。それが恐くて――そして憧れて。

 嫌いなのに無視できなかった。離れたいのに惹かれずにいられなかった。

 あなたの強さはその能力ゆえでしょうか?

 いえ――たとえ貧弱な力しかなくとも、自由奔放に生きそうな人、それが彼です。

 生きる意志など無くしそうもない人。それが騎士ヴァイスという人です。彼が絶望するところなど……、想像もできなくて。

 ああ――。

(騎士よ、お願いです)

 どうかわたくしに力を貸して。あなたのように迷わない力を。

 両目を見開いて見つめた先、スライムの巨体がどんどんと迫っています。

 絶望的でした。けれど、わたくしは心の中で念じ続けました。生きる、全員で生きる、生き延びる――!

 ずる……

 スライムの動きが一瞬、止まったように感じて――。

 わたくしは息を呑みました。ぷるるんと威嚇するように半透明の巨体が震えます。けれど距離は近づいていない。
 まさか……?

 そのとき突然背中をつんつんとつつかれ、わたくしははっと振り向きました。

 ソラさんが顔を横向かせ、上目遣いにわたくしを見ていました。手を持ち上げ、親指を立て――

「……もう、大丈夫だよ。巫女」

「……!?」

 そうしてソラさんは――微笑みました。

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